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| | 【2024/03/29 20:44 】 TOP▲
2001年、オックスフォード大学での講演。Part.2
 Part.1 からの続き

Part.2
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愛。皆さん、愛は家族にとって、最も重要な財産であり、豊かな遺産であり、黄金の贈り物です。世代から世代へと受け継がれていく宝です。昔の人たちには、私たちにあるような豊かさはなかったかもしれません。家には電気もなく、セントラルヒーティングのない小さな家にたくさんの子どもたちがひしめき合って暮らしていたことでしょう。しかし、家は暗くも寒くもありませんでした。愛の輝きで明るく照らし、温かい心で部屋を暖めました。富や地位という欲に毒されていない親たちは、生活の中で子どもたちのことを最優先に考えたのです。

皆さんご存知のように、イギリスとアメリカは、第3代大統領トーマス・ジェファーソンの起草した独立宣言の「譲渡され得ない権利」(注・・・生命・自由・幸福の追求)を巡り争っていました。2カ国がジェファーソン大統領の主張を巡り争う中、子どもたちにも「譲渡され得ない権利」があるということは議論されなかったのです。これらの権利が徐々に蝕まれていけば、世界中の子どもたちの多くが、幸福や安全を享受できなくなります。

そこで、すべての家庭に、児童権利法案が取り入れられることを強く望みます。条項を挙げると、

1. 愛される権利、自ら求めずとも。
2. 守られる権利、どんなことがあっても。
3. かけがえのない存在だと感じられる権利、何も持たずにこの世に生を受けようとも。
4. 話を聞いてもらえる権利、面白くない話でも。
5. 寝る前に読み聞かせをしてもらえる権利。夜ののニュースや、『イーストエンダー』(イギリスの人気ドラマ)に時間を取られることなく。(会場、笑)
6. 教育を受ける権利、学校で銃弾に怯えることなく。
7. 可愛がられる対象となる権利。(たとえ母親にしか可愛く思えない顔だとしても)(会場、笑)

皆さん、人の認識の土台、意識の始まりは、一人一人が、自分は愛される対象であるということでなければいけません。髪の色が赤か茶色かを知る以前に、肌の色が黒か白かを知る以前に、どんな宗教に属しているかを知る以前に、自分が愛されていることを知らねばならないのです。

12年ほど前、『BAD』ツアーを始めようとした頃、一人の少年が両親と共に、カリフォルニアの自宅を訪ねてきました。彼は癌で、死期が近く、私の音楽、そして私のことがどんなに好きかを語ってくれました。少年が長くは生きられず、今すぐにでも天に召される可能性があることを、彼の両親から聞き、私は彼に言いました、『ねぇ、君の住んでいるカンザスで、3ヵ月後にツアーをスタートするよ。ショーに来てほしい・・・さぁ、ビデオで着たこのジャケットを君にあげるよ』。少年は目を輝かせて言いました、『僕にそのジャケットをくれるの』。私は、『そうだよ、でもツアーの時、これを着て来るって約束して』。私は少年を持ちこたえさせようとしていたのです。私は、『ショーに来る時、君がこのジャケットとこの手袋をしている姿が見たいんだ』と言い、ラインストーンの手袋を少年にあげました。ラインストーンの手袋は、私は他に誰にもあげたことがありません。

少年は今天国にいます。おそらく、ずっと天国の近くにいたのでしょう、私が彼の町に行った時には、すでに亡くなっていました。あの手袋とジャケットを身に着けて葬られたそうです。少年はちょうど10歳でした。少年が持ちこたえようとベストを尽くしたことを、神さまはご存知だし、私にも分かっています。

彼が亡くなった時、両親からだけでなく、ほとんど他人である私からも、自分が愛されたことを知っていたことだけは確かです。私も彼のことが大好きでした。そしてそれは・・・それらの愛によって彼は知ったのです、自分がこの世にたった一人で現れ、たった一人で去って行ったのではない、ということを。

愛されている実感を持ってこの世に生を受け、愛されていると知ってこの世から去るなら、生きている間に起こるすべてを乗り越えられるのです。

たとえ教授に中傷されたとしても、そう感じないでしょう。上司に虐げられようとも、へこたれないでしょう。会社の同僚に打ち負かされたとしても、それでも成功することでしょう。

愛情を受けて育ってきた人を、心から傷つけることは出来ません。自分が愛される価値のある人間だという実感を持っているからです。残りの部分は、ただの包み紙のようなものです。

しかし、愛された記憶がなければ、心を満たすものを求め、世界中を探し回るようになります。どんなにお金を稼ごうとも、どんなに有名になろうとも、まだ虚しさを感じることでしょう。本当に探し求めているものは、無償の愛、つまり無条件に受け入れられることです。生まれた時に、享受できなかったものなのです。

皆さん、アメリカの典型的な1日の特徴を示すデータを見てみましょう。
6人の20歳以下の若者が自殺し、12人が銃の犠牲になっています。いいですか、これは1日当たりの数字で、年間の数ではありませんよ。399人の子どもたちが薬物中毒で逮捕され、1352人の赤ちゃんが10代の母親から産まれています。

これは歴史的に見ても最も豊かな先進国で起きていることです。そうです、私の国では、他の先進国と比較にならないほどの暴力行為が多発しています。アメリカの若者が、心の傷や怒りを表現する方法なのです。しかし、イギリスの若者の間に、同じ痛みや苦しみがないとは考えないで下さい。調査によると、イギリスでは、1時間に3人の未成年が、自虐行為──自ら身体を傷つけたり火傷をしたり、薬物を過剰に服用したり──をしているそうです。こうして彼らは、愛されない心の痛みや苦しみを乗り越えようとしているのです。イギリスでは、1年に一度しか、家族そろって夕食を取れない家庭が20%もあるそうです。1年にたったの一度!

そして、寝る前の本の読み聞かせという貴重な時間はどうでしょうか。1980年以降の調査によると、読み聞かせをしてもらっている子どもたちは優れた教養を身に付け、学校でも良い成績を修めています。しかし、イギリスの2歳から8歳の子どものうち、毎晩本を読み聞かせてもらっているのは33%にも満たないそうです。たいしたことじゃないとお思いかもしれませんが、今の親たちが子どもの頃には、75%が本を読み聞かせてもらっていたことを考えると、もっと深刻に捉えなくてはならないでしょう。

明らかに、この心の痛み、怒り、暴力行為の原因は探るまでもありません。子どもたちは、愛してほしいと訴え、関心を持たれないことに身体を震わせ、気づいてほしいと叫び声をあげているのです。アメリカのさまざまな児童保護機関によると、年間何百万という子どもたちが、無視という形の虐待の犠牲になっているそうです。

そう、無視です。裕福な家、あらゆる電化製品を完璧に備えた、名声ある家庭の中で起こっています。両親が帰宅する、でも、本当に家に帰ってきたのではない。頭の中はまだ仕事場にある、じゃあ、子どもたちは?さぁ、与えられた感情のかけらで間に合わせているだけ。そして、たくさんテレビを見たり、コンピュータ・ゲーム、ビデオから得るものは少ない。私は統計の示す悲しい数字に、魂をもぎ取られ、精神を揺す振られました。なぜ私が自分の時間や財産の多くを「ヒール・ザ・キッズ」の活動を始めるために費やすことにしたのか、お分かりでしょう。

私たちのゴールは単純です。親子の絆を取り戻し、地球の将来を担うすべての素晴らしい子どもたちの進む道を、明るく照らすことなのです。

これは私の初めての公の講演ですが、皆さんに温かく受け入れられ、さらに話をしたいという気持ちになりました。人にはそれぞれ自分の人生の物語があり、その意味で、統計データが個人的な意味を持つこともあります。

Part.3 に続く 
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| オックスフォード大学での講演、『ヒール・ザ・キッズ』 | コメント(0) | トラックバック() | 【2001/03/06 20:01 】 TOP▲
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